『Papers, Please』は2013年にルーカス・ポップによって制作されたインディーゲームである。ジャンルはアドベンチャー。
舞台は、1980年代の架空の国家『アルストツカ』。プレイヤーはアルストツカと隣国『コレチア』をつなぐ国境の入国審査官として入国希望者の書類審査を行うゲームである。
世界観

前述の通り、舞台はアルストツカと言う独裁国家。アルストツカはゲームが始まる少し前まで隣国のコレチアと戦争をしていた。周囲の国との国交回復まもない中で入国者の中には産業スパイやテロ組織なども多く含まれている。
お察しの通り、労働者への待遇はあまりいいものとは言えないようで、主人公の直属の上司となる男は非常に横柄な人物として描かれているし、労働抽選に当選した主人公は住居として八等級の家をあてがわれることになり、光熱費や食費の管理に非常に唸らされる。
入国管理の仕事は一人捌くごとに5クレジット(ゲーム内の通貨)であり、1日に捌けるのは大体10〜12人。つまり、1日の給料も50〜60クレジットくらいになる。生活費で大体40〜50は取られるので、初回プレイならまず食費や光熱費を削っていくゲームデザインとなっている。
1日の流れ
このゲームは基本的に、入国管理をするために設けられた場所で書類と規約を見比べていくものになっている。
パスポートの有効期限はきれていないのか? パスポートの発行都市は規定の場所なのか? 書類の印章は正規のものなのか?
等々、様々な部分を見比べていく間違い探しに似たゲーム性だ。これらの間違いを一つ一つ自分の目で確かめるのはとてもやっていられないので、それをより早く、より正確に進めるものが調査モード。この調査モードは二つの要素を選択し、問題がないかどうかを確かめてくれる。パスポートにある顔写真と本人の顔を比べてくれたり、入国規定との矛盾を調べたりなど、人の目でやれば数分かかる作業もこの、調査モードがあればものの数秒で完了してしまう。これで、重大な間違いがあれば、即拘束となる。
諸々の書類の確認が済めば、次に入国の可否のスタンプをパスポート上に押印する。スタンプ台の下までドラッグ & ドロップからの押印。このスタンプによって、入国希望者は入国、もしくは帰っていき無事5クレジットをゲットという流れだ。
ゲームとして
本作はいわゆる作業ゲーに属するもので、入国希望者を入国許可あるいは拒否していく。しかし、それだけではただ単調な作業になってしまうが、入国の制限やルールは日々変わっていく。勤務初日は自国民であるアルストツカ国民の入国しか認められず、他国民は拒否しなければならないが、二日目からは他国民の入国がOKになったり、他国民の入国にパスポート以外の書類が必要となったり、目まぐるしく業務内容が更新されていく。そんな中で、主人公は書類と睨めっこをするわけだ。
ここまでの話で「ただの作業ゲーなんじゃ・・・」と思った人もいるだろうが、そういうわけでもないのが、このゲームの人気の秘密だ。
ゲームを進めていくうちに、主人公はさまざまな人間と出会うことになる。そんな愉快な人物を次項で説明しよう。
愉快な訪問者たち(入国者)

・Jorji
なんの変哲もない入国希望者に見えるが、そうでもない。このお爺ちゃんは、検問所を訪問するたびに、おかしな書類を持ってくる。というか、最初にきた時は何も持たずにやってくる。なんなら、手作りのパスポートも持ってくる。
「アルストツカはさいこーの国」などと宣いながら、入国を試みる。拒否しても、懲りずに何度もやってくる最も愛らしいお爺ちゃんで、こんな鬱屈とした世界観ながら、なんだか癒されるキャラクターだ。
ちなみにこの手作りパスポートで入国許可を出すと『コブラスタン国は存在しない』と、当たり前の警告を受けることができる。

・EZICスター組織
ヘンテコな仮面にフードを被った男がくれば、作戦開始の合図。『EZICスター組織』はアルストツカを心配する気持ちが少〜しばかり強い革命組織だ。作戦開始を伝えるこの仮面の男は毎度、アルストツカを心配する読みづらくも心のこもったお手紙を主人公に渡し、アルストツカに入国させたい工作員のヒントとなるものを、渡してくる。
時には殺人の依頼も・・・? そこは実際にゲームをやってみよう。なぜなら、この組織に協力するかはプレイヤー次第なのだから。
愉快な訪問者たち(アルストツカの人々)

・Calensk
この男は国境検問所で警備を担当する警備兵で検問所で拘束されてしまった入国希望者だった人間たちを牢屋まで運ぶお仕事をしているという。
登場するのは物語序盤だが、プレイヤーのほとんどは最終盤までお世話になるキャラクターだろう。なんでも、この男曰く拘束された人間を牢屋に運ぶたびに手当が支払われるらしいのだが、それが主人公に払われないのは不公平だということで、二人を拘束するたびに5クレジットの賄r・・・分け前を支払うという。つまり、どんどん人の形をしたゴミどもを豚箱に入れてお互い得しようぜ(意訳)ということだ。
この男の提案はシステム錠受けるしかないのだが、こんな狂った独裁国家で働いていると、一番まともなことを言っているように聞こえるのがなんとも不思議なのだ。お金くれる人が悪い人なわけがないな!!

・Dimitri
多分だが、このゲームをプレイしていてこの男が好きな人物はいないだろう。嫌な上司像そのままの男である。
まず、10日に1回お呼びで無いのに、視察というテイで検問所へやってきて、評価という名の懇切丁寧な罵詈雑言と形ばかりの賞状を送ってくる。これを壁にかけておかなければ、ヒステリックを起こし、罰金を課される。さらにこれを2回繰り返せば、逮捕されるというかなりの横暴さを見せてくれる。非常に思慮深い上司だ。
さらに極め付けはゲーム中盤の出来事。Dimitriは外交官としてやってくる女性を何がなんでも通すように命令してくる。しかし、この女性なんと外交官の証明書の規定がちゃんと守られていない。規定通りに入国拒否をすれば、晴れて檻の中というとてつもなく腹の立つ人物だ。
こんな男の下で働いていれば、”うっかりと”革命組織に力を貸してしまいそうになるのも無理はないだろう。
さまざまな人間ドラマ
ここまでは比較的登場頻度の高い人物を紹介したが、今回紹介しきれなかった中にもさまざまな人間ドラマが起こるのがこのゲームの面白い点だ。作業ゲーだけではない飽きさせないデザインがなされている。
例えば、書類不備を見逃してほしいと懇願されたり、書類不備を直してくるからと腕時計を担保にしてみたり、さまざまな人間が検問所を通過していく。何周もやって反応をみたくなるイベントが盛りだくさんのゲームだ。
作業ゲーとして
では、作業ゲーとしてはどうなのか? もちろん、このゲームはそもそも作業ゲーがベースとなるわけで、作業もとても楽しい。しかし、業務に慣れてくるといちいち調査モードのボタンのところまでカーソルを持っていき、調査して、スタンプ台を取り出すという行為がどうも面倒くさくなってくる。そんなあなたに! と言わんばかりに登場するのが、ショートカットだ。
対応したキーを押すことでスタンプ台の取り出しを行えたり、即調査モードに移行するなど、基本的には地味にストレスな部分をキー1つでできてしまうスグレモノだ。
このショートカットが出てくるタイミングもまた秀逸で、なんだか面倒だな・・・と思ったタイミングで、出てくる。改良には5クレジットが必要だが、これもまた人によってはお金に余裕が出てくるタイミングなため、とても美しいゲームデザインだ。
しかも、「余計な人間ドラマなんていらない! いいから仕事をさせてくれ!」という重篤なワーカーホリックの人たちのためのモード『エンドレスモード』も用意されている。一度メインストーリーを最後までクリアすると解禁されるこのエンドレスモードでは、一切のストーリーもなくただひたすらに国境検問をすることのできる非常にストイックなモードになっている。
アルストツカに栄光あれ。
余談
実はこのゲームは短編映画になっている。ゲーム作者のルーカス・ポップ公認の短編映画で、本作の世界観に近いためか、ロシア語で展開されている。YouTube、Steamで無料公開中であり、日本語字幕もあるため、ロシア語がわからない同士諸君もぜひ見てみよう。
原作のような仄暗い鬱屈とした雰囲気を楽しめる実写短編映画だ。
作品情報
Papers, Please/Lucas Pop
プレイ環境
Steam,iOS
・Steamストアページ(1200円)
https://store.steampowered.com/app/239030/Papers_Please/
・App Storeページ(800円)
https://apps.apple.com/jp/app/papers-please/id935216956
関連リンク
・PAPERS, PLEASE – The Short Film(2018) 4K SUBS