#3「夜勤工場-涙の卒業編-」

もう2度と行かない、と言うか行けない。これ以上ここで働いていたら身体がもたない。そう工場に通勤する道の途中で考えながら通勤した。

前回の冷凍庫部署にも数週間働けば身体が適応し始め、-2〜6度の環境下を12時間働き続ける体に変化した。これは「シベリアフォーム」と名付けた。

時は流れ九月の下旬。18の小僧にしてはかなり大金を生み出したと言える上、冷凍庫部署のみんなにも決して「友情」ではないにしろ「信頼」が生まれ始めていた時期だ。

だがそれと同時に最後の時が近づいてきた。

俺はこの2ヶ月の修行で何を得たのだろうか。12時間労働は俺に鋼のメンタルと伝説の忍耐力を与えた。そして身体は部位の全てが冷凍庫の中で最も効率的に商品を振り分けるボディに仕上がっていた。好きなものが何と聞かれれば「パン」と即答するし、嫌いなものはそれ以外の全てだ。

そして迎えた最終日。正直12時間労働はかなり辛かったし、同僚も「聖人」なんて決して言えない。だが俺は感謝する。過酷な冷凍庫も、歯のない同僚たちも、もしかしたら俺が「立派なパンの戦士」になるためへの試練、必要な壁だったのではないか。

有終の美を魅せなければいけない、みんなに。これまでになく良い動き、良い心持ちで冷凍庫の中を駆け巡ってやる、と意気込んだ。父さん、いくよ。

そうして冷凍庫入るための体を温めるウォーミングアップを行う。

最後の受付のお兄さん、いや兄弟よ。目が合うとさまざまな感情が心から湧いてきた。思わず「ありがとう」と言いそうになり口を塞いだ。

お兄さんが喋る。

「まなべさん、本日は『和菓子課』でお願いします。」

えどこそれ。

まさかの一回も行ったことのない部署に配属。2ヶ月間いたのに恥ずかしいくらいテンパりながら団子を捌いた。そして2時間くらい経ってめっちゃ楽なことに気づいた。それを自覚した瞬間もう「感謝」とか「パンの戦士」とかは全て消え、この苦労の差がありながら同じ給料を貰っていた人間がいることにただブチギレていた。

そして団子をしばきながら、俺は決心した。

明日は行かない、もう絶対やめよう。

~完~