折坂悠太の読み聞かせ

 「やまんばマンボ」というタイトルを読んで、昔話の「やまんば」と「マンボ(音楽ジャンルの一つ)」を思い出せるのか。少し戸惑うタイトルとは違って、曲を聞くとすぐわかる。「昔話」だとわかる。折坂悠太の「読み聞かせ」のような声が話を始めるのだ。「腹を空かせた大きな人影」とやまんばの姿を想像させたり、「やまんばが来るぞ!」と怖がらせたりする。

 そうして歌い始める。曲の始まりとは違って、もっと旋律的に「歌い」始める。昔話を語るような歌詞はそのままだが、メロディとリズムが入ってくる。何よりも、彼の声が変わる。読み聞かせの淡々とした声から、折坂悠太特有の歌声に変わる。

 途中で一瞬、彼の声は「やまんば」と「旅人」になる。物語を語る誰かの声だったのが登場人物に化ける。こんなにも気が抜ける声でいいのか、と思ってしまう声で、彼は「食わせろー」「なんねー」と歌う。「マンボ」の走るリズム、追撃戦を描く歌詞とは対比される、彼のぬるっとした声は絶妙だ。

 特有の質感と共に、さまざまな方法で演出される彼の声は、折坂悠太が歌う「やまんばマンボ」が魅力的な理由だ。やまんばになったり、旅人になったり、物語を語る誰かになったり、そのつど声は変わる。昔話を読み聞かせてくれる幼稚園の先生の如く。


『やまんばマンボ』
作曲・作詞:折坂悠太
https://www.youtube.com/watch?v=6Z4j1TfRKVo