「やまんば」。山にひっそりと住まう老婆の妖怪であり、旅人を惑わし、人を喰らう恐ろしい存在として知られている。その伝承にユーモアとリズムを掛け合わせ、新たな魅力を引き出したのが、折坂悠太による楽曲「やまんばマンボ」だ。
本作の特徴は、なんといってもラテン音楽の「マンボ」を取り入れた意外性にある。独特のリズムと楽器編成によって、聴く者の身体が自然と動いてしまうような愉快さを持ちながらも、その根底にある語り部のような歌詞からどこか懐かしい童謡的な空気が息づいている。
折坂さんには、物事を語る力を感じられる。実際、「こどもに聞かせる一日一話2」という童話集の中で、童話を書いていた。その名も「つぎの、つぎ」。このお話は、たった見開き1ページのお話であるにも関わらず、面白い内容となっている。しかし、大人が読んでいると気になる部分が出てくるのだ。それは、情景描写が軽いこと、その分キーとなる言葉が多くあること。その童話のよさを、この「やまんばマンボ」にも取り入れられていると私は感じた。最初の、語りで童話チックに、その後の「やまんばマンボ」と繰り返しでてくる言葉とマンボの特徴的なキメのリズム。これが、この曲の最大の魅力となっている。
つまり、やまんばの別の一面。それもこの曲で感じられる魅力の要素となっている。過去を懐かしむような歌詞や、「おまえを食うのはやめた」といった言葉。私が知っている「ちょうふく山のやまんば」というやまんばの話のなかで、やまんばは人を食べると恐れられながらもやまんばの元へ向いやまんばのお世話をして満足させたおばあさんに対して、やまんばは優しかったという話がある。この「やまんばマンボ」のやまんばも恐ろしい部分だけを写そうとはしていない。このやまんばの二面性を、語りとマンボを使って恐ろしくも懐かしく楽しい曲にすることによってキャッチーな昔ばなし歌となっているのではないだろうか。