『魔女の宅急便』―音楽が描く少女の成長

スタジオジブリの名作『魔女の宅急便』(1989年)は、13歳の魔女キキが一人立ちの修行として新しい街に降り立つ物語。あらすじはシンプルだが、その背景には“成長”と“自立”というテーマが感じられた。

久石譲の音楽は、キキの心の動きや街の空気感を繊細に映し出している。オープニングの「晴れた日に…」は、名曲で爽やかな風のように広がる旋律がキキの希望を感じさせる。そこには少女の決意が感じられた。メロディは穏やかに始まり、やがて勢いを増していくような展開が、まさにキキの物語と重なります。

コリコの街での生活を彩る楽曲には、ピアノや木管楽器などが多く使われています。これらの音色でヨーロッパ風の雰囲気が表現され、明るく賑やかな街の人々の暮らしを感じられる。キキが街に馴染めず孤独を感じる場面では、メロディが短く途切れ、リズムが静まり、まるで街から彼女の心から遠ざかっていくように聴こえます。

この映画を語るうえで欠かせないのが、松任谷由実による主題歌「ルージュの伝言」とエンディング曲「やさしさに包まれたなら」です。「ルージュの伝言」は軽快なリズムとポップなメロディが特徴で、キキが空を飛び立つ場面にぴったりの高揚感を与える。恋について言及されている歌詞は、キキの背伸びしたい気持ちと重なり、作品に魅力を与えている。

一方、「やさしさに包まれたなら」は物語の終盤、キキが自分の力を取り戻したあとに流れる。穏やかで包み込むような歌声は、自分を信じ、他者と心を通わせるようになったことを音楽で表されている。まさにタイトル通り“やさしさ”そのものが形になっており、観た者に希望をもたらす。

久石譲の音楽は「音を鳴らさない勇気」にもあります。キキがスランプに陥る場面や、ほうきで飛べなくなる瞬間には、音楽が消え、代わりに風や波の音が静かに響く。その静寂こそが、キキの内面の孤独と葛藤を語っているようでした。

『魔女の宅急便』の音楽は、単なるBGMではなく、もうひとつの「語り手」として物語に寄り添う。旋律の一音一音がキキの心の揺れを映し出し、観る人に勇気を与えてくれます。久石譲の音楽と荒井由実の歌で、世代を超えて愛される理由そのものだと思う。