*アニメ映画『耳をすませば』のネタバレがあります
雫は物語が好きです。休み中に二十冊を読むと決めて、本当に読むぐらい好きです。どうしても読みたい本がある時は週末にもかかわらず、先生に頼んでまで、学校の図書館で本を借ります。
そんな雫は、現実でもさまざまな物語に出会います。出会うというか、物語を探しているようにも見えます。地下鉄で出会った猫を追いかけて行くと出てきた怪しい店(地球屋)、店の中で出会った西じいさんとじいさんが聞かせてくれた時計の話。地球屋から出てきた雫は「いいとこ見つけちゃった、物語に出てくる店みたい」と言います。
あまり嬉しくない物語にも出会います。長く知り合った男の子に告白されますが、友達だと思っていた雫は告白を断ります。現実での物語がそこまで悲しかったのか、本を読んでも「こんな風にうまくいきっこない」と思ってしまい、ワクワクしなくなります。
そんな雫はまた、出会います。聖司は落ち込んでいた雫を地球屋に連れて行き、西じいさんの猫人形「バロン」を見せてくれます。その後店の下にあるヴァイオリン工房で、聖司はヴァイオリン職人になる、そのために留学も行くと言います。聖司のヴァイオリンが聴きたいとお願いした雫は、その代わりに「カントリーロード」を歌うことになって、偶然にも帰ってきた西じいさんとじいさんの音楽仲間たちが飛び込み、素敵な合奏になります。
物語を読むだけでは足りなかったのか、雫は物語を書くと決めます。物語のようなことも、物語のようにうまく行きっこないこともあったからこそ、何か閃いたのでしょう。
物語を書くことは楽しいだけではありませんでした。食欲をなくすほど没頭する雫ですが、全く書けなくなることも、書いたものが気に入らないこともあります。小説を書く途中眠ってしまった雫は、夢の中で結晶でできた洞窟の中をさまよいます。「早く」と急かすバロンの声に光る結晶を探し続けて、ついに最も眩しく光る結晶を手に取った途端、光は静まり結晶は死んだひよこの死体になります。
やっと完成した小説を西じいさんに持ってきた雫は、今すぐ小説を読んでいただきたいと言います。小説を全部読んだ西じいさんは「荒々しくて率直で未完成」だと、雫の「切り出したばかりの原石」を見て素敵だと言います。雫は「書きたいだけじゃだめ」だったと、泣きだします。
西じいさんは雫にうどんを作ってあげます。泣いていた雫が静かにうどんを食べている姿を見ていると、暖かさと安心感が感じられます。他のジブリ作品に出てくる食べ物のように、このうどん一杯が持つ力は大きいです。もしかしたら励ましの言葉より、雫の体と心を落ち着かせてくれたのではないかと思います。
最近私にも西じいさんのような人が現れました。人に表現することが難しくて1人になってしまうと言う私に、ある人が言葉をくれました。その悩みを抱えていたすべての私へ「そのままでいい」と言ってくれるような言葉でした。人前だったので泣きたくなかったのですが、泣いてしまいました。
小さい頃観た『耳をすませば』はラブストーリーでした。雫と聖司が出会い、お互いに刺激になったり支えになってくれたりする、成長のラブストーリーでした。人は自分が見たいように見てしまうのですかね。今の私はこの映画を雫と西じいさんの物語として観ました。物語が好きで、自分の物語を描き始めるが脱皮の苦しみを経験する雫、そんな雫に励ましの言葉とうどん一杯を差し出す西じいさん。雫の苦しみに共鳴し、西じいさんの存在に慰められました。同時に、うどんを作ってあげる西じいさんの心を少し想像してみました。いつかその心がわかる時も来るのかなと思いました。