2025 3Q 制作ノート 吉田蒼


作成日:2025.12.05

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私の制作は、以前から関心を持っていた「お風呂場」という生活空間の着目から始まった。まずその一例として、水垢という現象を取り上げた。水垢は日常の痕跡として存在する一方で、湯気や熱によって消えてしまう曖昧な存在でもある。この性質を置き換えるために、熱湯を入れたボウルにゼリーを覆わせ、熱によって個体が液体へ移行していく過程を可視化する装置を制作した。ゼリーの変質を“水垢の変化”として扱う試みであった。

次に、お湯と布というより身近な素材を使い、お風呂場で体験される「水滴が落ちる音」や「蒸気が上昇する動き」を捉える作品へと展開した。蒸気というエネルギーの動きと、そこから生まれる変化を布の表面に生じる水滴とその落下によって示そうとした。これは日常に確かに存在しながら、注意しなければ意識に上らない現象を、再び見る/感じるきっかけとして位置づけた。

さらに、太さの異なるチューブを用いて水圧による水の運動を可視化する装置を制作した。チューブの径の違いによって流れ方に変化が生じ、シャワーや蛇口から垂れる水滴の“一瞬のバランス”がどのように生成されるのかを観察した。続けて、お風呂場にあるシャワーヘッドを利用し、より直接的に水の流れそのものを扱う装置にも取り組んだ。

これらの試行を重ねる中で、自分が特に惹かれているのは「見えないが大きな力をもつ現象」であり、その中でも“蒸気”に強い関心があることに気づいた。そこで、蒸気という目に見えにくい物質をどう扱うかを再考し、最終的にやかんの蓋を開閉することで、蒸気の量によって変化する音の大小や高さを観測する装置を制作した。蒸気の力を“音”として外部化する試みである。

今回の一連の制作を通じて、私は自分が「生活の中で気づかれにくいエネルギーの現象」や「形のない力の振る舞い」に強い関心を持つことを再確認した。また、今後どのようなアーティストの作品や研究を参照すべきか、その方向性も明確になった。



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