2024 3Q 制作ノート 與那嶺若奈


作成日:2024.12.09

作成者: Wakana Yonamine


背景

3年3Qから研究している「多層型映像表現」を継続して行う。

制作テーマ

今までやってきたことをまとめた上で、卒業制作作品としてどうしていくか検討・決定する。

また卒業制作に向けて一度振り返り、まとめたうえで3Q末講評兼オープンゼミにて展示した作品について記述することにする。

実践内容

1.これまでの振り返り

1-1.多層型映像表現とは

言葉を中心とした複数の情報を重ね合わせることで、情報の受け取り方や感情の変化に影響を与えることを目指した研究・作品を指す造語

1-2.取り入れている認知バイアス・心理効果

無関係の画像や映像を連続して見た場合、無意識に関連づけて考えてしまう心理作用

特定の情報を意識することで、それに関する情報だけが自然と目に留まりやすくなる心理効果

上記の効果は画像や映像を使用し実験を行い、視覚情報が大きく関係しているという結果が出ている。

本研究は上記の効果を、文字や音声を含む「言葉」という情報を中心に再表現することを目指している。

また本研究では、昨今のユニバーサルデザイン的思考と逆行した、鑑賞者及び制作者に鍛錬を求め、鑑賞・制作するにあたって身体化を求め、能動的な鑑賞・制作行動を伴うメディア作品を制作することを目的としている。

2.今期制作・展示した作品について

さまざまな表現方法に挑戦してきたからこそ、一度原点回帰しようと思い立ち制作した作品。

複数の純文学作品から文章を引用し、それらを文章同士・文章と音声で重ね合わせることで、鑑賞時の感情や受け取り方に変化を与えることを目指す。

四作品を一つの映像にまとめた形態で、それぞれに鑑賞する際に鑑賞時の感情や受け取り方に変化を与えるために、トリガーとなるキーワードを設定している。これは所謂複数の文章内で共通して使われている、または共通の話題となっている単語のことを指す。

また原点回帰ともいえる特徴の一つが、文字(と音声)のみで構成された、シンプルな構造をしているという点である。それゆえ鑑賞者によってどこまでを情報として受け取るかに違いが出ることが予想され、鑑賞時に「わからない」「混乱した」といった感想を抱く可能性を想定している。

一般的な作品鑑賞において、これらの感想はあまり好まれないものだが、本研究および本作品においては最も予想されうる感想であり、これがある種の正しい感想とも言えるだろう。というのも、本研究では作品の鑑賞時及び作成時に、楽器の身体化(音を出すだけなら簡単だが、演奏しようとするとそれなりの練習が必要となる行動)にも似た作品体型に設定しているため、一度鑑賞しただけでは表面しか理解できず、しかしトリガーとなるキーワードには触れているため、「混乱する」という状態になると予想する。複数回鑑賞することで文章を分けて解釈できるようになったり、あるいはうまく繋げて解釈できるようになると想定している。

一般的にアート作品と区分される作品以外にも、映画や本など難しい作品を何度も繰り返し鑑賞したり、ギターのコードの練習をするといった、「はじめはそれとなく触れてみたものの、その後もどうしても気になる、または習得したいという感情が芽生え、何度も対象と接点を持つ」行動自体のおもしろさ、またそれらの結果として得られるものに限らず、繰り返す過程にも注目し、作品に対して抱く感情の変化や記憶の変化を楽しんでもらいたいという思いのもと、制作した。

作品

作品1『trifle』

作品2『糸屑』

使用文学作品

作品1(文章のみ)『trifle』

1-1.キーワード:先生

  • 『こゝろ』夏目漱石
  • 『銀河鉄道の夜』宮沢賢治

1-2.キーワード:生き物

  • 『吾輩は猫である』夏目漱石
  • 『犬』レオニイド・アンドレイエフ Leonid Andrejew 森鴎外訳

1-3.キーワード:食べ物

  • 『蠣フライ』菊池寛
  • 『南京の基督』芥川龍之介

1-4.キーワード:花

  • 『泥濘』梶井基次郎
  • 『秋風記』太宰治

作品2(文章+音声)『糸屑』

キーワード:糸、人生、魚、水、網膜など

反省点

今回の展示にあたり、作品の説明を極端に省いてしまったため、そもそも何かわからず作品を鑑賞しない、あるいは鑑賞してもすぐに止めてしまう人もいた。どこまでを説明して、どこまでを想像してもらうかは今後も考えなければいけない点だと思う。

加えて今までの作品でも、どの文学作品がどこで使用されているのかについては、展示では明記しないことが多かった。これにより多層型映像作品が目指している感覚の変化の部分が弱くなっている可能性があることがわかった。今後は使用している文章についても作品内のどこかに表示して、感覚の変化に影響があるか観察する必要がある。

また複数の文学作品を使用しているということを見た目で伝えるために、表示する行をわざとずらしたり、読む方向に変化を加えたりなどしたが、結果としてまとまりがなくなり、コラージュ感が強まってしまったという意見を頂いた。どのような表示方法が最も適切かはこれまでも検討していたが、卒業制作に向けてしっかりと詰めていきたい。

今後の展望

卒業制作に向けて、どのような表示形式、どのような文章や情報、どのようなデザインでいくのか、残り時間は少ないがしっかりと詰めていきたい。



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