ユアネスは福岡で結成された4人組ロックバンドである。繊細な歌詞に込められた感情を、ひとつひとつ丁寧に掬い上げるような優しいボーカルが特徴的である。彼らの作る楽曲には物語性があり、一曲聴き終えると小説の読了後にも似た充実感に包まれる。
「人は花のようである」という死生観をコンセプトに2019年に発表された『ES』。このEPに収録されている「紫苑」には、”追憶”や”君を忘れない”という想いが詰まっている。今昔物語からインスピレーションを受けているため、内容を知っているとより楽曲を楽しめるだろう。
そんな「紫苑」には心惹かれる歌詞がいくつもある。例えば、「あなた」の存在の忘却を「呼び慣れた名前を何処かに置いてくるかもしれない」と言い表しているところだ。素直な表現でもストレートに心へ届くが、こうした文学的な言い回しをされると何度も読み返して、心の大事な引き出しにしまい込んでおきたくなる。曲中では一切「忘れる」という単語を使用していないのに、その意味合いを聞き手へ伝えられる古閑翔平氏の言語センスに脱帽する。
さらに、ラスサビを「簡単に覚えて」と「簡単に忘れ去って」、「淡々と流れて」と「淡々と流れ去った」の対比で畳み掛けてから最後に「この芽を振り向かせてほしい」と締め括ることでこの一文がより一層際立ち、楽曲の中で圧倒的な存在感を放っている。
私はこの曲に、たとえいつか「あなた」に忘れ去られるときが来たとしても、そのときはまたはじめからやり直してもいいから、それでもいいから「あなた」を想って生きていきたいというメッセージが込められていると解釈した。初めて「紫苑」を聴いたとき「人が本当に死ぬのは、命を落としたときではなく誰からも忘れられたときだ。」という一文が思い浮かんだのを今でも覚えている。『ES』で題材にされているのがその言葉の通りであるかはわからないが、私はこの考え方も一種の死生観だと感じた。