SEVENTEEN 10th Mini Album「FML」
SEVENTEEN 10th Mini Album「FML」

 SEVENTEENは、韓国の13人組男性アイドルグループ。楽曲制作から振付までをメンバーが手掛ける「自主制作アイドル」としても有名である。
 「Super」は「손오공(孫悟空)」という韓国語版タイトルを持ち、その名の通り「孫悟空」を意識した中華風の雰囲気が漂う力強い一曲。「僕たちは止まらない、走り続ける」と歌うこの曲は、筆者が過去1アツい楽曲だと感じた一曲でもある。要因は様々あるが、一つに集約するとすれば「歌詞の重み」である。

 それは、彼らが積み重ねてきた8年という年月が大きく関係する。K-POPアイドルは、一般的にデビューから7年という年数で事務所と契約をしており、7年経つと契約更新に向けて交渉が始まる。グループとして活動を継続するには、多くの場合メンバー全員が同じ事務所との契約を更新することが必要となるため、7年目を迎えたグループが脱退・活動休止・解散してしまうケースが非常に多いのだ。「7年目のジンクス」、「魔の7年目」とも呼ばれ、ファンからは恐れられている。

 SEVENTEENは、そんな魔の7年目を乗り越えた韓国内で初めての多国籍・大人数グループだと言われている。しかも、満場一致で契約更新ともいかず、8ヶ月もの間話し合いを続けて決まった再契約だった。ソロ活動への意欲を見せるメンバーもいたが、「ソロで輝くという選択を諦める」という我慢をメンバー全員で背負い、「グループで輝く」というファンを思う気持ちを踏まえた選択をとったという。

 また、先にも述べたようにこのグループはメンバーが作詞作曲を手掛けており、それはこの曲も例外ではない。本人たちが制作に携わっているからこその、歌い手と歌詞の焦点人物の一致が強く感じられる。
 再契約に関するエピソードを踏まえ、彼らのその経験が歌詞に反映されていると思って聞くと、「I luv my team I luv my crew」という歌詞の重みや、楽曲を通して感じられる「13人が揃えば最強」感が最高にアツい。

 個人的に目で観て楽しむ音楽という側面も強いK-POP。SEVENTEENは、数あるグループの中でも特に息のあったキレのあるパフォーマンスで名高いため、ぜひ一度見てほしい。だが、この楽曲はサビに歌詞が少ないうえ、13人という人数の多さから正直パートが均等に割り振られているとは言い難い(筆者の「推し」も、歌唱時間は6秒ほどしかない)。しかし、短いパートの中にもメンバーごとに目を引く見せ場がしっかり存在しているのだ。13人のメンバー+大勢のダンサーの中にいてもセンターに立つメンバーが際立つよう、巧妙に作り込まれた振り付けやフォーメーション、ステージ演出の数々。

 特に筆者が好きなのは、楽曲冒頭で「SEVENTEEN right here」と発するメンバーのパート割りである。これまでも、イントロでサウンドロゴ的に「SEVENTEEN right here」のフレーズが使用されてきた。過去の楽曲では、一貫してグループのリーダーであるメンバーがこのフレーズを担っていた。それが今回の楽曲では初めてリーダーではなく、楽曲制作を担当しグループのプロデューサー的立ち位置であるメンバーがこのフレーズを口にすることになった。この掛け声の後、Aメロの歌詞は「下を向いたまま上り続けた 頂上まで」と続く。掛け声の中の「here」は「頂上」を指し、それをグループの核であるメンバーが宣言するのである。さらにこのメンバーはイントロの後、なんと楽曲の終盤までパートがない。最後の最後、楽曲が一番盛り上がるタイミングに満を辞して登場するのだ。この「真のラスボス感」が伝わるだろうか…。

 そしてこのメンバーが歌う楽曲終盤に、「この曲はこのアニメのエンディング曲だ」という歌詞がある。エンディングと言われると、彼らにとっても何かの終わりが訪れることを意識してしまうが、この文章の冒頭を思い出して欲しい。この楽曲で歌われているのは、「僕たちは止まらない」という彼らの意思。この曲が本当にアニメのエンディングであったとしても、最終回で完結せず「僕たちの冒険はまだまだ続く!」で終わるタイプであろうということが容易に想像できる。彼らはこれからも走り続けるのだ。

 この曲のMVは、アイドルのMVにありがちなリップシンクや演技シーンが全くなく、全編パフォーマンス映像で構成されている。上からのアングルや躍動感のあるカメラワークで、200人以上のダンサーを従えた大迫力のパフォーマンスと一糸乱れぬダンスを楽しむことができる。

 全ての楽曲の制作をメンバーが行なっているからこその魂が滲むような楽曲に、13人の絆や貫禄を漂わせる息が合いすぎたパフォーマンス。そしてそれらに対して絶対の自信を感じさせる、パフォーマンス一本で仕上げられたMV。8年目の今だから見られる彼らの姿は、最高にかっこいい。アイドルだから、韓国語だから、と食わず嫌いしていた人も、筆者を信じてぜひ彼らのパフォーマンスに触れてみてほしい。あわよくば、その一歩がSEVENTEENという底無し沼に足を踏み入れるきっかけの一歩になって欲しいと願うばかりである。