1950年代〜1960年代は世界各国で映画制作の現場が多様化し、監督やプロデューサーたちが様々な実験を試した改革のシーズンでした。70年代に入ると徐々に産業化していき、80年代にはハリウッド映画も一つのピークを迎えます。
ここでは、そうした巨大産業化する前までの時代の作品の中から、今観ても可愛くてお洒落な作品をご紹介します。ほとんどの作品がDVDになっていたり、配信などで気軽に観られますので、登場人物たちのファッションはもちろん、カメラワークや画面の色彩感覚にもぜひ注目して観てみてください。


『ティファニーで朝食を』(1961年/アメリカ)
顔がちっちゃくてスレンダーなスタイル、ファッション・センス抜群のオードリー・ヘプバーン。オードリーが出ている作品はどれも彼女のキュートな魅力が満載ですが、中でも本作はティファニー本店店内での撮影シーンも含めて終始ニューヨーク・ロケでまとめられていておしゃれ度満点です。でも、実際にティファニーの商品を身につける場面はなく、商品は買わずにシリアルのオマケの指輪に刻印をしてもらったり、すっぴんのオードリーがアパートの窓辺でギターを弾きながら「ムーン・リバー」(ヘンリー・マンシーニ!)を歌ったりと、着飾らない素の魅力とは何か? を伝える作品になっています。トルーマン・カポーティーの原作本と合わせてぜひ。


『おしゃれ泥棒』(1966年/アメリカ)
こちらもオードリー主演ですが、贋作作家の父親とパリの街中に暮らす女性という設定。終始面白くて最後はスカッとするコメディながら、ロマンティックな場面もあり、スリルもあり、それでいて全身ジバンシィの服に身を包んだオードリーがモデルのごとく次々とモードなファッションで登場するのが見ものです。サングラスをかけて華麗にオープンカーのハンドルを握るニコル(オードリー)と、スラリと長身で青い瞳が素敵なサイモン(ピーター・オトゥール)とは、彼女の出演映画の中でも1、2位を争うナイス・カップルだと思います。


『裸足で散歩』(1967年/アメリカ)
ニューヨークのオンボロ・アパートに暮らす新婚夫婦と風変わりな住民たちとの何気なくも奇妙な日々を描いた都会派コメディ。のちに監督業に進出するものの、当時ハンサム俳優として人気を博していたロバート・レッドフォードと、華やかなブロンドヘアとオレンジ色のタートルがお似合いのジェーン・フォンダとは相性バッチリ。二人のウィット溢れる会話を楽しんで吉、の1本です。それもそのはず、原作はアメリカの人気劇作家、ニール・サイモンによる戯曲。ニール・ヘフティによる劇中音楽もしゃれていて都会の粋が味わえます。


『ロシュフォールの恋人たち』(1967年/フランス)
とにかく画面が鮮やか! 主役の双子姉妹の衣装もさることながら、バックの建物やエキストラの服装とも調和していて、さすがはジャック・ドゥミ監督、隅々まで計算されたカラーリングであることがよくわかります。双子姉妹を演じているのはフランソワーズ・ドルレアックとカトリーヌ・ドヌーヴという、実生活でも姉妹の二人(ドルレアックは若くして事故死。ドヌーヴは今なお現役。是枝裕和監督の『真実』で主演していますね)。ミシェル・ルグランによるサントラも一家に1枚の名盤です。


『アンナ』(1966年/フランス)
これを観てアンナ・カリーナを好きにならない人なんているのかな? と思えるほど彼女の超チャーミングな表情、ファッションが堪能できるミュージカル。パリを舞台としたポップでカラフルなストーリーはアンナを魅せるためと言ってもいいほどでで、実際にヘアスタイルから着こなしまで当時の全てのパリジェンヌの憧れといったところ。筆者はアンナがかけているラウンド型の黒ぶち太フレームに似たメガネを探しまくって買いました(笑)。セルジュ・ゲンズブールが音楽を提供、役者としても出演もしています。


『死刑台のエレベーター』(1958年/フランス)
筆者が一番好きな歴代フランス人女優はジャンヌ・モロー(2017年没)です。何が魅力って、その不機嫌そうな「への字口」。お世辞にも愛想がいいとは言えないそんなジャンヌが、ここでは若い男と恋に落ちる社長夫人を演じていてイメージがピッタリです。ぜひ彼女の「への字口」にノックアウトされてください。とはいえ、サスペンスの本作は映画としても素晴らしく、マイルス・デイヴィスが即興で作ったというサントラもそのノワールな画面をクールに彩っています。 それにしてもこれが監督デビュー作というルイ・マルの才能たるや! 


『ナック』(1965年/イギリス)
大きなキャスケットを被ってツイードのコートを着たボブ・ヘアの女の子の格好は、その当時のロンドンに出てきた田舎のコの垢抜けないファッションの典型。でも、今観るとすごく可愛いし、ファッショニスタには参考になることばかり。ビートルズの映画を撮影した監督による、カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得したのも納得、のユーモラスで奇妙な青春コメディ。ヘンテコな展開、ユーモラスなセリフも特徴的ですが、ベッドに乗って町中を走るシーンは歴代洋画の名場面の一つだと思います。


『さらば青春の光』(1979年/イギリス)
英国ユース・カルチャー映画の基本のキのような映画で、ある種『ウエスト・サイド物語』のイギリス版のような側面も。60年代の「モッズ」と「ロッカーズ」という対立関係にある二つの勢力の動きから、“青春とは?”を考えさせられる狂おしく切ない物語……なのだけど、三つボタンの細身スーツにパーカー(モッズ・コート!)を着て、ミラーやライトをいっぱいつけたデコラティヴなスクーターに乗るモッズくんたちのファッションは今やUKファッションの伝統と言ってもいいはず。当時大人気だったイギリスのロック・バンド、ザ・フーのアルバム『四重人格』が原作。音楽作品をオリジナルとする映画……という在り方も新鮮です。


『8 1/2』(1963年/イタリア・フランス)
スランプに陥る映画監督を主人公にした本作は、イタリアの巨匠、フェデリコ・フェリーニ監督の自伝的・私小説的な作品として知られています。個人的には、私生活でもフェリーニのパートナーとなるジュリエッタ・マシーナ主演の『道』がこの監督の最高傑作だと思いますが、ニーノ・ロータの美しい音楽に包まれつつもストーリーらしいストーリーはなく、自意識と閉塞感にまみれながら孤独と向き合う本作のラスト・シーンは、この人の内在するクリエイティヴィティが抉り出されていて象徴的。ジョニー・デップもお手本にしただろう黒ぶちのウェリントン眼鏡に黒いハットを被ったマルチェロ・マストロヤンニの粋な佇まいにヤられてしまいましょう!


『月曜日のユカ』(1964年/日本)
昔の日本にも洒落た映画はいっぱいあります。特に市川崑監督の『黒い十人の女』は、今日のフェミニズム思想にもフィットする洒脱なストーリーもさることながら岸惠子のキリリとした美しさがモノクロームの画面の中で光っていておすすめです。そしてもう1本は本作。気まぐれでどこか醒めた女性のユカの行動が周囲の人間模様を狂わせていく物語自体もさることながら、山下埠頭やホテル・ニューグランドなど当時の風景も華やかな港町・横浜の当時の風景が味わえるし、何しろ加賀まりこのコケティッシュな可愛らしさが爆発していて最高。ヌーヴェルヴァーグの日本版とも言えるカルト的人気の1作です。