「つーーー」。
「くるりってどんなバンド?」そう聞かれたら私はこう答える。
くるりがどんなバンドなのか100人に尋ねたら、100の答えがあるだろうが、そのうちの1人である私は、くるりに対して「つーーー」というイメージを持っている。「つーーー」というのはあまりにも抽象的すぎる言葉だが、岸田さんの歌い方や楽曲、くるり自体も、ずっと一定にそこにあるようなそんな感じだ。くるりの音楽はいつでも無心で聴ける、聴いてしまう。これが私が感じるくるりらしさだ。
そもそも、私がくるりの曲をちゃんとくるりの曲だと認識して聴いたのは、授業内での作業時間に安田さん(教授)が繰り返し流していた「ばらの花」だった。普段作業中に日本語の曲を聞くとそっちに集中してしまって作業がなかなか進まなかったりするのだが、この曲は、スッと耳を通り過ぎていた。それは私が普段から歌詞にとても注目して聴く方ではないからなのか、くるりだからなのか。きっとくるりだからだ。
それは、くるりの「男の子と女の子」という楽曲を聴いたときにも感じた。私は個人的に大好きなハナレグミがカバーしているところから知ったこの曲は、くるりのメンバー自身も最も温かみがある曲だと評しているらしい。そんな温かい楽曲を歌う2組は同じようでいて、全く違うイメージを持っていると私はおもう。ハナレグミが歌う「男の子と女の子」は無心で聴くことはなかったが、くるりの「男の子と女の子」はやっぱり無心で聴けてしまった。
ハナレグミの「男の子と女の子」はアコースティックギター一本のアルペジオでしっとりと語りかけるように歌われている。ハナレグミの柔らかい声とギターのアルペジオが相まってとても優しい、懐かしい雰囲気を漂わせている。
一方、くるりの「男の子と女の子」はギターのストロークとベース、ドラムによって、バンドの賑やかな雰囲気を持っているが、ボーカルの岸田繁の真っ直ぐとした芯のある歌声が、曲が進むにつれその賑やかさを大人びた雰囲気に、どんどんと落ち着かせていっているように感じる。ハナレグミが歌うこの曲が、過去を振り返って懐かしむ「大人」なイメージだとすれば、くるりは、この曲の主人公と一緒に歳をとって、その時々に感じていることが歌われているようなイメージにある。後ろのバンドが、ギターのストロークから始まり、途中からドラムとベースも入ることで曲の雰囲気は変化しているが、それでも岸田の歌声が変わらずそこにあることで、ずっとくるりらしさが保たれているのではないか。
新曲「In Your Life」を初めて聴いたときに、この「らしさ」を鮮烈に感じた。初めて聴いたはずなのに懐かしさと色褪せない何かを感じ、無心で聴いた。無心で聴けてしまうせいで、歌詞の内容は全く頭に入って来なかったが、その分歌声とメロディに意識が集中していたのだろう。やはり岸田の歌声はまっすぐで芯があり、ずっとブレない。夏のドライブ中に聴きたくなるような爽やかなこの楽曲だが、他にあるドライブソングとは違う爽やかさだ。バンドの跳ねるようなギターとベースに引っ張られるようにして爽やかな風が吹くが、そこにボーカルの声が相まってどこか落ち着いた雰囲気も纏い、優しく外に連れ出してくれるような感じがする。
そこまでずっと同じフレーズの繰り返しだった2分30秒、ラストに現れる一回しかないサビをどこかで待ち侘びていたことに気づく。この曲はサビらしき部分がラストの一回だけなのだ。一回しかサビがない分、与えるインパクトはとてつもなく大きい。そこまで溜め込んでいたものが一気に解放され、聴いているこちら側は開放感に満ち溢れ……幸せに包まれながら“ドライブ”を終える。つい先日、「In Your Life」のPVが公開された。登場人物3人はなんと劇中で本当にドライブしていた。一昔前のオリジナルメンバー3人を思わせる若者がドライブしていた。しかもオープンカーで開放的に。驚いた。
「In Your Life」はくるりの「つーーー」をとってもよく感じることができた楽曲だった。大きな抑揚のない歌い方や、真っ直ぐ芯のある声、歌詞、メロディ、演奏、全てが相まってスッと耳に頭に入り込んでくる。無心で聴いても、歌詞に注目しても、魅力に溢れている。久しぶりのオリジナルメンバー3人が集まって作られた「In Your Life」だからこそ、特に「つーーー」が感じられたのかもしれない。岸田繁、佐藤征史、森信行が作り出す「つーーー」な音楽をもっと聴くことができると思うと、10月4日に発売される14thアルバム『感覚は道標』へのワクワクが止まらない。