「晩餐歌」by tuki. その3

ここからは、「晩餐歌」が売れた背景について考えていく。当時、この曲はYOASOBIの「アイドル」やAdoの「踊」、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」に並ぶほどのヒット曲であった。有名なアーティストの中で唯一無名だったtuki.がここまで人気を集めたのは、まさにこの時代の状況や文化が起因していると言えるだろう。
はじめに、日本が2020年からコロナ禍に入ったことが大きい。一見「晩餐歌」が売れたのは2023年から2024年であるために、年数が違うのであまり関係がないと思うかもしれない。しかし、これによりtuki.はギターを弾くことをはじめ、社会全体では外に出ずにSNSを主に使用する環境が徐々に形成されていくきっかけとなったのだ。その背景の中で注目されたのがTikTokだ。このSNSが他と違うのは15秒から60秒ぐらいの短い動画を投稿や共有できることだ。作る側も見る側も時間をあえて少なくすることで制作コストの削減や決まった時間の中でたくさん動画が見れるといったメリットがある。その中で彼女は自分で作った曲を投稿し、ファンから意見をもらい、それまでなかったオープンな場所での曲作りを行なったのだ。それにより、会社ではなくファンがサポートをするという新しい仕組みが生まれ、TikTokは気軽に自分の音楽を投稿できる環境として、誰もがアーティストになれる可能性がある場所に。使用者はアーティストを応援するだけでなく意見交流やいろんな人に拡散するなどのサポートをし、成長をより近くで見届けるというファンの在り方に。彼女の活動から生まれた多くの新しいものは、これから当たり前へと変わっていくかもしれない。もしそうなるのであれば、アーティストやファンの在り方は今よりもガラッと変化していくため、我々視聴者はその変化をどう受け止めるべきかを考えていく必要があるだろう。
さらにこの曲を有名にしたのが歌ってみたという拡散方法だ。ただ口コミで広がるよりもいろんな人がカバーして歌うことによって原曲を知るきっかけになる。この文化は以前から存在しているが、どちらかというと歌が上手な人がカバーをするイメージが強く、ハードルが高そうだと思える。けれど、当時の他の人気曲とは違って「晩餐歌」は、ゆっくりとしたテンポと尖った高音や低音を使わず無理のない音域を使っており、歌いやすい特徴を持っている。それにより、たくさんの人がカバーをしやすくなり、数多くの歌ってみたによってこの曲は拡散されていった。
次に、tuki.のアーティスト活動に注目してみる。tuki.といえば、顔を出さないスタイルで現在活動している。こういった自分を出さないアーティストは、今では世間に問題なく受け入れられている。顔という情報を無くして活動するのは、歌だけに集中してほしいという意図があるのだろう。しかし、ここにはそれだけの理由ではないと私は考えている。近年では、SNSがどんどん発達していろんな情報が出るようになった。それにつれて、自分のプライバシーが侵害される可能性もだんだん高まってきている。こういった部分から、自己防衛として顔を出さずに活動することで自分のプライバシーを保つようにしているのではないかと思う。また、コロナ禍によってマスクをつける習慣が続き、自分を隠すことで安心する心理も働いていると考える。現在ではマスクを外している人もたくさんいるが、私のように顔を出すのが怖くマスクを手放せずにいる人も多くいる。そのため、今後も彼女のような顔を出さないスタイルはより増えていくのではないだろうか。
このように、「晩餐歌」が人気になった背景にはコロナ禍やSNSの普及と浸透、歌ってみた文化などが関わっている。この時代だからこそtuki.というアーティストが誕生し、「晩餐歌」が人気となったのだろうと私は考える。