ワルツのような印象から始まってジャズのような、タンゴのような雰囲気になったりと揺れ動く。だが使われている音色は優しいものであり、彼女の歌声も相俟って激しさや激情的なものにはなっておらず非常に聴き心地が良い。

二番的なメロディからは一転してJ-POPのようであり、聴き馴染みがあるような感覚になるがまた先ほどのようなメロディへと戻るのがどこか転調したようにナチュラルに変化するのが面白い。

私は案外好みであるし、曲調や歌詞に至るまでに世界観が作り込まれていてとても興味深い。歌詞から物語性を感じられて、想像するのが楽しいくらいだ。

この曲は青葉市子が歌っているが、オリジナルは山田庵巳というミュージシャンのもののようだ。ただインディーズがゆえに調べてもあまり情報がつかめない。私はオリジナルよりも青葉市子の歌うものの方が、世界の荒廃具合に寄り添うような、幼い子供たちが見つめる虚空に対して背中にもたれかかる余裕を与えるような感覚が味わえて好きだ。

7:09あたりのリズムの「星を模したオブジェと」がチム・チム・チェリーの「わたしは煙突掃除屋さん」のリズムを思い起こさせた。だからだろうか、初めて聞いたというのにどこか懐かしさを覚えるのは。

太陽の昇らない街で人工の太陽を作り出そうとする少年の歌、らしい。

あまりにも知らないこともあって、数少ないながらにもこの曲の解釈をしている人を調べてみると”愛しの君”、人間の彼女との恋愛模様だと考えている人が多い。オリジナルである山田庵巳は語り部パートでそれに近しいことを述べているようで、つまるところ本人から出た公式の解釈としては恐らくそれが正しいのだろう。

しかしそういった語り部のパートがない青葉市子のアレンジでは、省かれているが故に聞き手側が様々な妄想を繰り広げることが可能といっても過言ではない。

実際に私は、そういった恋愛模様の曲の解釈だとは思わなかった。

「僕はまがいものさ」という点から人間ではない”僕”が人間を目指す上で足りない何かを彼女たる”ナニカ”から得ようとして、去っていく彼女を追いかけられない。

「君がいなくなって」、僕だけでなく宇宙や星すらも「夢をなくして/うつむいてばかりさ」というのは、僕を中心とする周りの環境すらも影響を与えてしまうほどに僕にとって”愛しの君”たる彼女が大きな存在だったのだと。

そんな暗澹たる雰囲気に呑まれる僕に寄り添うことなく日々は進んでいき、彼女のことを世間は忘れていっても僕だけは抱えて生きていく___のような。

ただただ恋愛模様の曲、の一言では表せないようで。愛しの君と僕だけの世界に僕だけが囚われているようにも思える。

こんな倒錯的のようで儚いような、一つの単語では形容し難いこの曲はきっと誰かの心を一つ、また一つと掴んでいくのだろう。

投稿者

お手伝いさん。好きな果物は檸檬。

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